仕事を休もうかと考えている方/既に休まれている方/職場に戻りたい方/職場に戻られた方から相談を受けることがあります。それぞれ置かれている状況は異なり、悩んでおられる内容も異なるのですが、基本的な事項についてまとめてみました(2021/02/15ブログ)。
以下は、その改編です。
自宅安静が必要だったあなたも、脳の状態が改善することで、次第に気分(鬱や適応障害など)の波が小さくなり、少しずつ安定してきます。体力が戻り、気分も落ち着いて、日常生活が普通に送れるようになってきたら、職場へ戻る準備を始めましょう。
ただし、ここで焦ってはいけません。病気(うつ)は再発率が高い病気です。中途半端な回復で職場へ戻る準備を開始すると、再度ぶりかえすことが高い確率で予想されます。ですから、日常生活が普通に送れるようになったかを、きちんとチェックすることが必要です。信頼できる方や主治医に「職場に戻る準備を始めたいのだけど、取り組んでも大丈夫?」と質問してみましょう。あなたの判断が、早すぎるのか、それとも、よいタイミングなのか、客観的な意見を言ってもらえるでしょう。
もし応援して下さる方からもOKが出たら、あなたの復職期限を踏まえた上で、どうやったら就業可能な状況に持っていけるか、職場復帰へ向けた作戦を練る必要があります。以下は、そんなあなたに対するアドバイスです。
①生活リズムを整える 休職開始後は、脳を休めるために睡眠を優先する必要がありました。そのため、疲れたら眠る・朝はゆっくり起きる・昼寝をするなどの行為が推奨されます。しかし、落ち着いてきたら、職場に戻れるよう、徐々に生活リズムを就業時へ近付ける必要があります。その手助けとしてあなたの毎日の活動を記録してみましょう。睡眠の時間・食事の時間・日中に何をしたか・その時の気分、をザッと書き留めると良いです。
記録にあたり、セラピスト個人としては、1日1ページ手帳タイプ(『ほぼ日手帳』が有名ですね)よりも、週間バーチカル手帳タイプ(『ジブン手帳』が有名ですね)の方が、全体を俯瞰できていいなあと感じていますが、これは好き好きです。どちらでもどうぞ。手帳はあなたの価値観を表現したものです。ですから、シンプルな手帳でも、かわいいキャラクター手帳でも、自分の気分があがるならOK。
もしくは、手帳という形ではなく、記録表を自分なりに作成してもいいです。ネット上にたくさん載っているので(生活記録表とか活動記録表とかで検索すると出てきます)、自分にあったもの(紙形式・アプリなど)を探すこともアリです。以下のサイトを、ご参考までに。
※紙形式
※アプリ (2位のSELFは記録表ではありません。しかし、ユキオさんとの会話は楽しいです)
こういった記録は、主治医にみせると治療の一助となるでしょう。また、会社によっては、産業医・人事から回復を確認するため提出を求められることがあります。もしくは、さりげなく面談の際に質問として聞かれることがあるかもしれません。それらの質問は、あなたが、自身の体調を管理し労働できる状態に戻っているかをチェックするためになされます。チェックされる基本的な項目と質問の意図とを以下に載せます。ご自身でも、回復具合を確認してみて下さい。
①朝一定の時間に起きているか?(=就業開始時刻に間にあうか) ②朝の気分や疲れは?(=前日の疲労から回復して出勤できる状態か) ③ 食事は摂れているか?(=生活状況は整っているか) ④日中どのように過ごしているか?(=就労に耐えられるか) ⑤運動しているか?(=体力が戻っているか) ⑥外出できているか?(=通院しているか、通勤が可能か) ⑦一定の時間に眠っているか?(=睡眠リズムが整っているか) ⑧その他(=復職する職場で求められる事項、たとえば就業意欲・コミュニケーション能力など)
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②活動できる時間を延ばす 日中に横になってばかりいると、気力・体力が低下してしまいます。身体を起こして、何かすることが必要です。家の中の活動(掃除や片付け・料理・読書・脳トレ・趣味など)を徐々に増やすだけでなく、元気が出てきた方は、散歩・買い物・カフェにモーニングを食べに行く・図書館で調べ物をするなど、どこかへ定期的に通うことができると通勤訓練にもなります。様々なことにチャレンジすること自体が復職準備になります。
その際の注意点。無理のない毎日続けられることから取り組みましょう。たとえば、パソコンを使う仕事の方が、パソコンにさわる際は、電源を入れてみるとか、趣味のことから取り組むとか、作業する時間を限定するとか、急ぎすぎないことが大切です。その後、徐々に時間を延ばし、最終的には終業時間(8時間)の間、活動できることを目指します。
もちろん、調子が悪い時は休むことも大切です。ただし、生活における最低限度のこと(顔を洗う、着替える、食事を摂る等)をしてから一休みしましょう。実は、この時期は身体を動かしているうちに、気分があがってくる場合もあるので、 調子が悪くても一定の時間行動する、調子が良い時はプラスαのチャレンジを心がけます。
もし、休職された期間が長かったり、自分だけで復職準備を進めることに自信がない方は、主治医の先生に頼んでリワークプログラムを紹介してもらうこともアリです。プログラム内では、模擬的な職場施設に通いつつ、あなたが復職を目指す上で求められるスキルや考え方を学び、復職に向けたリハビリを行います。必ず事前に施設見学して話を聞き、自分にあった場所を探すことが大切です。同じ悩みを持つ仲間・相談できるスタッフがいるため、孤独感を減じることができます。
リワークプログラムが開催されている主な場所の特徴を簡単に紹介します。
<地域障害者職業センターで行われるリワーク> 公的機関のため、利用時の費用は無料ですが、雇用保険に入っていない教職員や公務員の方は使えません。また、利用にあたり障害者手帳は必要ありません。全国に設置されており、熊本では中央区大江のハローワーク内にあります。職業カウンセラーが、本人・会社・主治医と連携を取りながら、職場復帰に向けた支援を行います。
<医療機関で行われるリワーク> 精神科や心療内科の病院・クリニックで行われており、健康保険が適用されます。自立支援制度を利用できる場合は、通常3割負担の医療費が1割負担まで軽減されますので(月ごとの負担上限金額もあり)手続きをした方がお得です。医療機関内での実施のため、病状を回復・安定させる治療の一環として支援が行われています。多職種の医療専門職(医師・看護師・精神保健福祉士・作業療法士・心理師など)がいるところもあれば、そうでもないところもあります。そのため、受けられる支援にはかなり幅があり、「復職トレーニングのみ」の所もあれば、「主治医や職場との連携まで」の所もあります。
<就労移行支援・就労継続支援事業所で行われるリワーク> 障害のある方の就労支援を行う事業所の中には、休職された方を対象とした支援を行っている事業所が一部あります。利用時の費用は前年の世帯収入によって異なるため、無料~負担上限金額(月ごと)の支払いとなります。事業所は障害や疾患のある人の就労・就職支援に特化しているためノウハウが豊富で、必要な仕事面・生活面でのアドバイスを受けられます。最近は発達障がいに特化した事業所もあるため、自分の困りごとに応じたリワークが受けられる場所を探すため、必ず事前の見学をお勧めします。なお、利用にあたり自治体の許可が必要になっています。許可が出るまでに一定の時間がかかるため、時間がない方にはお勧めできません。
<企業内で行われるリワーク>
企業さんによって、になりますが、社内制度として独自の復職支援を行っている所があります。上司・産業医療スタッフ・人事に利用したい旨を伝えるとよいでしょう。現場に近い所でのトレーニング(試し出勤など)ができるため、復職してから安定して働けるかを見極めることができ、有用です。 |
③休職の原因を分析・対策を練る 休職によって、十二分に休んで脳の状態が落ち着き、しっかり物事を考えられる状態になってから、休職前のストレス要因を改めてふり返りましょう。ふり返りの作業では、何があなたを追い込んだのか、どうして休職に至ったのか、その要因を冷静に整理し、悪循環から抜け出すための方法を探る必要があります。
ちなみに、病気(鬱や適応障害など)を引き起こすストレス要因としては、職場要因とプライベート要因があります。どちらかが原因というよりは、2つが複雑に絡み合っている場合が多いため、どちらの要因もふり返る必要があります。
ステップ1:思いつく限りのストレス要因を書き出す
まずは休職に至る数年前から自分自身に何が起こっていたかを、時系列に沿って書き出していきます(業務内容・職場環境・対人関係・体調の変化など)。人によっては、自分自身の変化だけでなく、身近な方の変化(たとえば、家族が介護が必要になった・子どもが進学で家にいなくなった・コロナで友達と疎遠になった)が影響を与えている場合もあります。いろいろな角度から振り返っていきましょう。その際は、頭の中だけで思い浮かべるのではなく、紙・タブレット・スマホ・誰かに話すでも構わないので、とにかく外に出すことが必要です。そうすることで、当時自分の置かれていた状況が客観的に見えてきます。 この作業の際に注意すべきこと。淡々と事実だけを書き出しましょう。休職前のことを思い出して辛くなりすぎる時は、作業は一時中断します。もしくは、誰かに手伝ってもらうことも必要でしょう。
なお、嫌だったことだけでなく、嬉しかったこともセットで書き出して下さい。 何故なら、一般に、人は嫌なことはストレスと認識できやすいのですが、喜ばしいことはストレスと認識しにくい傾向を持っています。しかしながら、『営業でトップセールスになった』後のプレッシャーが半端なかった、『昇進した』後に周りとの関係で苦労した、『きょうだいが結婚した』後に自分もしなきゃと焦った、等はよくある話です。 また、嬉しかったことは、あなたを支えてきた土台となる部分かもしれません。問題解決のため、色々な角度から、ゆっくり自分自身を振り返ってみましょう。
ステップ2:何を目標とすべきか絞り込む
思いつく限りのストレス要因を書き出した後は、何が解決できたら職場に復帰できるのかを考えていきます。あなたの具合が悪くなった要因は複数あることでしょう。しかしながら、それら全てを根本的に解決しようとしては、時間がいくらあっても足りません。そのため、重要度と改善可能性から、あなたが取り組むべき優先順位を考えていきます。
1)重要度の観点から 休職に至ったストレス要因のうち『ここさえ何とかできれば、職場に戻れるのに』というものが、あなたにはあると思います。例えば、職場要因であれば「A係長の前では固くなる」「この仕事だけは本当に苦手」とか。プライベート要因であれば「休みは1日寝ていて体力がなかった」「介護問題が厳しかった」とか。何が復帰にあたり、重要度の高いポイントでしょうか?
2)改善可能性の観点から 改善可能性の高いものに取り組んでいくという視点も大切です。 セラピーの中で、よく取り組みたいと言われるテーマとして「子ども時代、私は親に怒られてばかりでした。自己肯定感が不足しているので、親子関係のトラウマを解決したい。自己肯定感があれば、職場でやっていけると思います」があります。確かに、自己肯定感をあげることは、生きることが楽になるという意味合いからも非常に重要です。しかしながら、このテーマを取り扱うには時間がかかります。復職までに制限時間があるのですから、失職を防ぐために『復職までの大事な期間は、親からの悪影響を避けるために、親とは距離を置く』といった、とりあえずの目標を立てた方が改善可能性からみて現実的かもしれません。
ステップ3:対策を考える
復職前に自分が抱えていたストレス要因が、再び生じた際に、これからの自分であれば何ができるのかを考え、実際に取り組んでいく作業に移ります。自分の取り組みで変えられることは変え、自分の取り組みで変えられないことは周囲に助けを求めましょう。 業務関係 業務の負担が大きかった方は、その業務が今後大きなストレスにならないよう、どういう仕事の進め方をすれば良かったのかを考えましょう。もし自分の力だけで解決が不可能な時は、上司や人事に今後の相談をしないといけません。その際「この業務に負担を感じていた」「この業務はこの形であれば対処できる」「この業務は誰かに手伝ってほしい」等と伝える必要があるでしょう。場合によっては、「この業務(もしくは役職)から外してほしい」と配置転換を希望することになるかもしれません。 ただし、相談した結果「この業務は最低限できるようになってから復職してほしい」と会社側から言われることも覚悟しておきましょう。会社側の意見が妥当なもの(社会人として乗り越えるべきこと)なのか、それとも否なのかは、きちんと考える必要はありますが、ひとまず自分の気持ちを伝えてみることが相互理解の第一歩になるでしょう。 職場の人間関係 1)仕事に支障をきたすレベルの嫌がらせを受けていた場合はハラスメントですので、人事・総務の方にきちんと事情を伝え解決を探りましょう。 2)他者から好かれていない感じで悩んでおられた方は、職場は友達を作る場ではなく、賃金をもらう場であると割り切ることも必要です。「職場は最低限のコミュニケーション(報・連・相)だけ」と考えて勤務時間をやり過ごし、プライベートの人間関係を充実させることで元気になる方もおられます。 3)特定の人が嫌でたまらない場合、その相手が無神経で失礼な奴であれば、いかに相手から距離を取るかがポイントになるでしょう。ただし、その方に特段の理由がない場合は、もしかしたら自身の過去のトラウマが影響を与えているかもしれません。「急いで復職するためには、トラウマ治療なんてちんたらやっている場合じゃない」という意見もありますが、『今の自分は安全』という感覚がないまま職場に戻っても大変なことになりますので、部分的にトラウマ解消をはかることは検討していいでしょう。 4)他の人と自分を比較し過ぎて苦しかった場合、劣等感の解消をはかる支援を受けることが必要かもしれません。
自分自身の特性 1)人に頼めない・断れない・相談できない・何でも抱えてしまう・完璧主義などの思考パターンや行動特徴があったのであれば、それらを少しでも変えていきましょう。これらの改善は、再発予防・よりよい生き方を得るためにも必須です。 2)他者にとってのいい人をやめることも必要です。自分のこころを守るためのスキルを身につけていきましょう。その際、マンガでよくわかるエッセンシャル思考(無料試し読み部分あり)はタメになりますので、興味がある方は読むことをおススメします。 |
④復職に向けた手続きを 復職しようという気持ちが固まり、主治医からも復職OKが出たら、まずは会社に復職の意思を伝えます。その際は「調子良くなったので、この日から会社に出社します」という言い方ではダメです。休む時に手続きが必要だったように、復職の際も手続きが必要です。まずは「調子が良くなったので、復職を考えております。つきましては、復職手続きを教えて下さい」と伝えてみましょう。すると、会社側で必要な手続きを教えてくれるでしょう。会社によっては、復職の可否を判断するため、診断書の提出、産業医や人事や上司との面談が求められるかもしれません。
面談の際は、現在の体調と共に、なぜ休職に至ったのか自分なりの要因分析と対策を問われるだろうと思います。ここで前述した『③休職の原因を分析・対策を練る』で考えたことを基に、しっかり職場側と今後の業務について相談しておきましょう。この段階で、職場とのすり合わせができないと、復職してからの職場定着が難しくなります。その上で、「いつから復職するか」「同僚にはどのように伝えてほしいか」「通院をする日」等、必要なことをすりあわせます。また、意外と大切なことですが、現在の職場状況(自分が働いていた頃に比べて変化はないか)について教えてもらうことも必要です。そして、可能であれば、復職時期を繁忙期とは違う時期にしたり、復職日を週の中日にしてもらえないか(月曜日出勤だと土日までの期間が長いため)調整してもらいましょう。
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⑤復職まであと少し いざ復職が決まると、いろいろな不安が生じます。心配事としてあがりやすいものを以下に載せます。
1)同僚へどのように挨拶するか? 菓子折りまでは必要ないですが、事前に職場に顔が出せるのであれば、先に簡単な挨拶を済ましておいた方が気が休まるかもしれません。また短い定型挨拶文、例えば「お休み中は御迷惑をおかけしました。〇日から復職するのでよろしくお願いします」を考えておくとドギマギすることが少ないでしょう。
2)やれるかどうか不安でたまらない 一度具合が悪くなった場所に戻るのは勇気がいることです。ただし、以前と異なり、休んだことで気力体力が回復していますし、お薬や周囲の人があなたの下支えをしてくれています。少しずつ仕事に慣れることを目標に、ひとまず1日1日を乗り越えることだけを考えてましょう。最初から完璧を目指していると続きません。とにかく、その日与えられた問題に対応しているうちに、力が戻ってきます。
3)急に具合が悪くなった 復職直前に体調を崩す人も多いです。具合が悪くなることは大変ショックですが、それだけ、あなたが真剣に復職を考えている証拠でもあります。復職自体をゴールとは捉えず「まずの一歩」と気楽に捉えることが必要です。そう捉えるためにも、しっかり寝て、しっかり食事をするという、生活の基本をおさらいしましょう。そうやって自分を整え、復職当日に備えることが求められています。もし、どうしても回復できない時は、職場と主治医に相談し、復職日の再設定をはかりましょう。急がば回れの精神です。
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⑥復職せず、退職する場合 休職して自分自身を見つめ直されたあなた。熟慮の上、復職とは違う道を選ぶのであれば、セラピストはその選択を応援します。その際の手順を以下に示します。
1)上司に退職の意思を伝える 体調不良で仕事を辞めざるをえないことを簡潔に伝えましょう。この時、体調が悪くて、直接伝えることが難しい場合は、家族などに頼んだり、メールや電話や手紙で対応する手もあります。最近は退職代行の業者もいます。
2)必要書類を提出する 通常の退職と同じように退職届を出すことが求められます。また、会社から貸与されていたもの(名刺・社員証・制服・鍵・パソコンなど)で、返却の必要があるものは準備しておきましょう。健康保険や厚生年金は会社を通じて脱退手続きが必要なため、会社に確認をして、求められた書類を揃えておきます。
3)私物の整理 職場に私物がある場合、片付けをする必要があります。退職日に行っても構いませんが、同僚の目が気になるのであれば、上司に相談をし、事前に人の少ない日に出かける手も。
4)退職日 立つ鳥跡を濁さずの精神で、お世話になった方に挨拶ができればいいですね。2つの書類(離職票・源泉徴収票)は退職日にもらえるかは分かりませんが、大切な書類ですので確認しておきましょう。
5)退職後の手続き 自分自身で健康保険や国民年金の手続きが必要です。体調が悪くてしんどいかもしれませんが、医療費が全額負担になったり、年金がもらえなくなったりすると、大変困りますので、ここは踏ん張りどころ。また、納税通知書が届いたら、住民税の支払いが必要です。 人によっては、傷病手当金や失業等給付の手続きが必要な場合も。
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